
私の人生において、「問い」との出会いは大きな転機でした。
仕事の上での大きな転機は、マッキンゼーのコンサルタントと一緒にプロジェクトを進めるようになったことです。
その後、私は多くのコンサルタントと仕事をする機会を得ました。
彼らと仕事をする中で、情報を引き出す質問力、課題を整理する力、論理を組み立てる力、相手に伝わるプレゼンテーション力、フレームワークを使って物事を構造化する力が、どんどん磨かれていきました。
その頃の私は、自分がビジネスマンとしてかなり強くなっていると感じていました。
少し大げさに言えば、最強のビジネスマンに近づいているような感覚さえありました。
しかし、今振り返ると、その時の私は、まだ大切なことに気づいていませんでした。
課題を解く力。
人を説得する力。
プロジェクトを前に進める力。
これらは確かに重要です。
しかし、仕事とは、課題だけでできているわけではありません。
仕事とは、人と人との関係の中で動いているものです。
そして、そのことに私が深く気づくきっかけになったのが、ドイツでのコーチングとの出会いでした。
コーチングとの最初の出会い
当時、私はドイツで大きなプロジェクトに取り組んでいました。
非常に忙しい毎日でした。
そんな時、上司であるキャロラインから、コーチングを受けることを勧められました。
正直に言うと、私は最初、コーチングというものがまったくわかりませんでした。
コーチと聞いて思い浮かぶのは、スポーツのコーチだけでした。
ビジネスにおけるコーチングとは何なのか。
何を教えてくれるのか。
どのように役に立つのか。
まったくイメージが湧きませんでした。
私はキャロラインにこう言いました。
「もし私に必要な技術的、知識的なギャップがあるなら教えてください。すぐに努力して埋めます。だから、何が足りないのかを具体的に教えてください」
つまり私は、足りない知識やスキルがあるなら、それを学べばよいと考えていたのです。
すると、キャロラインは静かに言いました。
「その考え方そのものが、ギャップかもしれませんね。きっと、コーチングのコーチは役に立ちますよ」
その言葉を聞いても、当時の私は十分には理解できませんでした。
それでも、上司に勧められたこともあり、しぶしぶコーチングを受けることにしました。
「何も教えてくれない」コーチへの違和感
1回目のコーチングは、お互いを知るための時間でした。
そこでわかったのは、私のコーチには製薬会社の経験がないということでした。
私の業界についての専門知識もありません。
営業支援ツールやグローバルプロジェクトに関する実務経験もありません。
私は正直、がっかりしました。
「この人が、私に何を教えてくれるのだろう」
そう思いました。
2回目のコーチングでは、さらに違和感が強くなりました。
コーチは質問をします。
そして、にっこりして、私が話すまでじっくり待ちます。
私が話している間は、うなずいて聞いています。
しかし、具体的な助言はありません。
有益な情報もくれません。
最後には、
「次回は、話したいテーマを持ってきてくださいね」
と言われました。
私は内心、こう思いました。
「何も教えてくれない。役に立つ情報もくれない。そのうえ、テーマを持ってこいと言う。これは詐欺のような仕事ではないか」
今考えると、とても失礼な受け止め方です。
しかし、当時の私は本当にそう感じていました。
私は、コーチングとは何かをまったく理解していなかったのです。
3回目のコーチングで起きたこと
3回目のコーチングでは、現在進めている仕事のテーマを持っていくことにしました。
テーマは、営業支援ツールをグローバルの新しいシステムに統一することでした。
具体的には、主要国の社長や本部長を説得し、半年以内に各国で使っているローカルツールを止め、グローバルツールを導入する合意を取り、実務者とプロセスを確認することでした。
私は、非常に明確な仕事の目標を持っているつもりでした。
するとコーチが聞きました。
「あなたは何を成し遂げたいのですか」
私は少し驚きました。
「今、説明した通りではないか。コーチは私の話を聞いていなかったのか」
そう思いながら、私はテーマと同じことを答えました。
主要国の社長や本部長を説得し、半年以内にグローバルツールへの変更合意を取り、実行プロセスを確認することです、と。
するとコーチは、次にこう聞きました。
「それを達成したら、あなたはどう思いますか。どう感じますか」
私は答えました。
「ヤッター、嬉しい、達成した、成功した、と思うと思います」
するとコーチは、さらに聞きました。
「相手はどう思うと思いますか」
私は答えに詰まりました。
「わかりません」
するとコーチは言いました。
「じっくり考えてみてください」
私は少し抵抗を感じました。
「いろいろなケースがあります。考えても無駄だと思います」
するとコーチは、静かに聞きました。
「なぜ、無駄だと思うのですか」
私は言葉に詰まりました。
そして、こう答えました。
「わかりません。私の役割ではないと思います」
その時、コーチはさらに問いを重ねました。
「相手がどう思ってくれたら、あなたは嬉しいですか」
この問いで、私は少し立ち止まりました。
そして、こう答えました。
「グローバル全体の利益に貢献できてうれしい、と思ってくれたら嬉しいです」
それまで私は、自分が何を達成するかだけを考えていました。
しかし、初めて、相手がどう感じるか、相手にとってこのプロジェクトがどういう意味を持つのかに意識が向き始めました。
目標には「こと」だけでなく「人との関係」がある
コーチはさらに聞きました。
「あなたの目標が達成されたとき、相手に何を言いますか」
私は答えました。
「このグローバルプロジェクトの趣旨をご理解いただき、6か月以内にシステムをグローバルに変更することをお約束いただき、感謝いたします」
するとコーチは、次にこう聞きました。
「1か月後、半年後、1年後、あなたは彼らとどのようなコンタクトを取りますか」
私は、少し戸惑いながら答えました。
「私の仕事は、システム変更の合意とスケジュールの確認です。ですので、今後彼らとコンタクトを取る予定はありません」
するとコーチは聞きました。
「今後、ローカルで実施されていたシステムのようなものが、グローバルに統一されることはあると思いますか」
私は答えました。
「あると思います。むしろ増えると思います」
コーチは続けました。
「あなたの行動は、未来のグローバルプロジェクトをやりやすくしていますか」
私は黙りました。
考えていませんでした。
私は、目の前の合意を取ることだけを考えていました。
半年以内にシステムを統一することだけを目標にしていました。
しかし、その行動が、相手にどのような印象を残すのか。
その後の信頼関係にどのようにつながるのか。
未来のグローバルプロジェクトをやりやすくするのか、難しくするのか。
そこまでは、考えていませんでした。
私は思わず聞きました。
「どうすればよいでしょうか。プロセスに組み込むべきでしょうか」
コーチは言いました。
「そうかもしれませんね。相手の立場に立ってみてはどうでしょうか」
私は、また言葉に詰まりました。
それまでの私は、自分の役割、自分の成果、自分のプロジェクトを中心に考えていました。
しかし、コーチの問いによって、相手の立場、相手の感情、相手との未来の関係に目が向き始めたのです。
質問しなければ、相手は話してくれない
その後、コーチはこう言いました。
「相手に質問をしたら、たいてい答えてくれますよね。
でも、質問しなかったら、何も話してくれない可能性は高くありませんか」
これは、問いとも提案とも取れる言葉でした。
しかし、私にとっては非常に大きな言葉でした。
私は、仕事ができるつもりでした。
論理的に考え、資料を作り、相手を説得し、プロジェクトを前に進めることには自信がありました。
しかし、相手に質問していなかった。
相手がどう感じているかを聞いていなかった。
相手にとって何が不安なのか、何が納得につながるのか、何が誇りになるのかを十分に考えていませんでした。
私は、相手を説得しようとしていたのです。
でも、相手を理解しようとはしていなかったのかもしれません。
この気づきは、私にとって非常に大きなものでした。
違和感が、やがて納得に変わった
最初、コーチングは違和感ばかりでした。
何も教えてくれない。
有益な情報をくれない。
答えをくれない。
そう思っていました。
しかし、徐々に、こちらの方が本当は正常なのではないかと思うようになりました。
なぜなら、コーチは私に答えを与えようとしていたのではなく、私自身が自分で気づくための問いを投げかけてくれていたからです。
常に自分に問いを立てること。
相手の立場になって問いを立てること。
現在だけでなく、少し先の未来も考えてみること。
そうすると、今何をすべきかが見えてくること。
私は、そのことを少しずつ実感していきました。
1か月後のメール
コーチングの後、私は行動を変えました。
プロジェクトの合意を取って終わりにするのではなく、1か月後に各国の社長や本部長にメールでコンタクトを取りました。
そこで、いろいろな情報を得ることができました。
システム導入後に何が起きているのか。
現場ではどのように受け止められているのか。
不安や不満はないのか。
どのような支援が必要なのか。
質問すると、相手は答えてくれます。
そして、答えの中には、次の仕事につながる大切な情報が含まれていました。
これは、私にとって大きな発見でした。
スペインの社長の言葉
その後、まだ私がドイツにいる時に、スペインの社長がドイツ本社に栄転してやってきました。
彼は私に会うなり、こう言ってくれました。
「ヤス、会いたかったよ。
あなたは、スペイン人の心が唯一わかる日本人だね」
その言葉を聞いた時、私は深く感動しました。
もちろん、私は本当にスペイン人の心がすべてわかっていたわけではありません。
しかし、少なくとも、相手の立場に立とうとした。
相手に問いを向けた。
自分の都合だけでプロジェクトを進めるのではなく、相手の感情や誇りや納得にも意識を向けようとした。
そのことが、相手に伝わったのだと思います。
この経験は、私にとって忘れられないものになりました。
目標設定の意味が変わった
この出来事を通じて、私は仕事の目標設定を変えると決めました。
それまでは、目標とは「ことの達成」だと思っていました。
何を達成するのか。
いつまでに実行するのか。
どの数字を達成するのか。
どのプロジェクトを完了させるのか。
もちろん、それは大切です。
仕事である以上、成果は必要です。
しかし、それだけでは足りないと気づきました。
目標には、人との関係も含まれるべきです。
相手がどう受け止めるのか。
相手との信頼関係はどう変わるのか。
その行動は、未来の仕事をやりやすくするのか。
その成果は、自分だけでなく、相手や組織にどのような意味を持つのか。
この気づきが、現在私が取り組んでいる ラーニングゾーン目標設定 の原点になりました。
目標は、単に達成するためのものではありません。
目標は、自分のあり方を問い、相手との関係を問い、未来への意味を問い直すものでもあります。
「何を達成したいか」だけではなく、「どうありたいか」
この経験を通じて、私は大切なことに気づきました。
人は、何を達成したいかだけでなく、どうありたいかを問う必要がある。
何を成し遂げたいのか。それはもちろん大切です。
しかし同時に、
どんな自分でそれを成し遂げたいのか。
相手にどのように感じてほしいのか。
その成果が未来にどんな関係を残すのか。
自分の行動は、他者や組織にどのような影響を与えるのか。
この問いがあるかどうかで、仕事の質は大きく変わります。
そして、人生の質も変わります。
問いは、ビジネスの成功だけでなく、生き方そのものを変えていく。
私は、そのことをドイツでのコーチングを通じて実感しました。
気づくのは遅かった。でも、遅すぎてはいない
正直に言えば、私はこのことにもっと早く気づきたかったと思います。
もっと早く、問いの力を知っていれば。
もっと早く、相手の立場に立つ問いを持てていれば。
もっと早く、目標を「ことの達成」だけでなく「人との関係」まで含めて考えていれば。
そう思うことがあります。
後悔はあります。
しかし、気づくのが遅かったとしても、遅すぎることはない。そうも思っています。
だから私は、自分に問いを立てました。
これからの人生で、自分は何をしたいのか。
どんな人間でありたいのか。
自分が時間をかけて気づいたことを、誰のために、何のために使いたいのか。
その問いの先に、会社の設立がありました。
問いの素晴らしさを、多くの方々と共有したい
私は今、問いの素晴らしさを多くの方々と共有したいと思っています。
問いは、人に答えを押しつけるものではありません。
問いは、その人の中にあるものを呼び起こすものです。
自分の経験。
自分の感情。
自分の価値観。
自分の信念。
自分の無意識の反応。
自分が本当に望んでいること。
自分がどうありたいのか。
そこに光を当てるものです。
人は、誰かに変えられる存在ではありません。
自分に問い、自分で考え、自分で選び、自分で行動したときに、自分の人生を創り始めます。
私は、そのことを自分自身の経験から学びました。
そして、この学びを、本、カード、ブログ、研修、コーチングを通じて、多くの方々と分かち合いたいと思っています。
それが、私にとっての社会貢献です。
最後に
このブログの最初の記事として、私は自分自身の原点を書きました。
問いとの出会いは、私にとって単なる仕事術の発見ではありませんでした。
それは、目標の意味を変え、人との向き合い方を変え、人生の生き方を変えるものでした。
何を達成したいのか。
それは大切です。
しかし、それだけではなく、
どうありたいのか。
誰と、どのような関係を築きたいのか。
その行動は、未来に何を残すのか。
自分の力を、誰のために、何のために使いたいのか。
こうした問いを持つことで、仕事は単なる成果達成ではなくなります。
人生は、単なる成功の積み重ねではなくなります。
問いが変わると、見える世界が変わります。
問いが変わると、相手との関係が変わります。
問いが変わると、自分のあり方が変わります。
そして、人は少しずつ、自分自身の人生の創造者になっていくのだと思います。
これからこのブログでは、問い、心のめぐり、自己理解、他者理解、相互理解、目標設定、コーチング、研修、そして「問いで拓く心のめぐりカード」について、少しずつ書いていきたいと思います。
この場所が、読んでくださる方にとって、自分自身の問いと出会う小さな入口になれば幸いです。
